ビジネスモデルが変わる「enough number」って何?

今回は、マーケティングの世界で非常に重要ながら、意外と知られていない言葉『enough number』について、深掘りして解説していきます。

この言葉を直訳すると「十分な数」となりますが、この数字の本質を理解しているかどうかで、あなたのビジネスモデルは根底から変わる可能性があります。

「もし自分のビジネスだったらどうだろう?」と想像しながら、ぜひ最後まで読み進めてみてください。

目次

あなたのビジネスを支えるのに必要なクライアントの数は?

電卓とペンと書類

『enough number』が問いかけているのは、「あなたのビジネスが目標を達成するために、最低限必要なクライアントは一体何人ですか?」ということです。

これは、事業の健康状態を測るための、非常に重要な指標となります。

例えば、あなたが一人でサロンを経営していて、「月商100万円」を目標に設定したとします。

もしあなたの提供するサービスの平均単価が1万円であれば、目標達成には「100人」のクライアントが必要です。一方で、法人向けのコンサルティングサービスを提供しており、月額10万円の契約であれば、必要なクライアントは「10社」となります。この「100人」や「10社」こそが、あなたのビジネスにおける『enough number』なのです。

『enough number』の計算方法

『enough number』を算出する計算式は非常にシンプルです。

目標売上 ÷ 平均顧客単価 = enough number

例えば、月商50万円を目指すネイルサロンで、客単価が1万2,500円の場合、「500,000円 ÷ 12,500円 = 40人」となります。まずはご自身のビジネスの目標と単価を当てはめて、具体的な数字を把握することから始めましょう。

「enough number」がビジネスの羅針盤になる理由

なぜ、この『enough number』を明確に認識することが、それほどまでに重要なのでしょうか。

その理由は、『enough number』があなたのビジネスが狙うべきターゲット顧客を決定づけるからです。そして、ターゲットが変われば、提供すべき商品(サービス)の価値や内容、さらには販売方法やマーケティング戦略まで、すべてが変わってきます。

先ほどの「月商100万円」という同じ目標を例に考えてみましょう。以下の5つの選択肢では、それぞれアプローチすべき顧客層が全く異なることが、直感的にご理解いただけるのではないでしょうか。

同じ月商100万円を目指す5つの選択肢

  1. 月1万円 × 100人
  2. 月2万円 × 50人
  3. 月5万円 × 20人
  4. 月10万円 × 10人
  5. 月100万円 × 1人

どの選択肢でビジネスを組み立てますか?

月1万円で100人を集めるモデルの場合、ターゲットは比較的ライトな悩みを抱えている、あるいは美容や自己投資への関心が高い層になるでしょう。この場合、100人を集めるための幅広い集客力、つまり「マスマーケティング」に近い考え方が必要になります。

一方で、月5万円のサービスを売るなら、ターゲットは「お金を払ってでも解決したい」と強く願う、非常に深い悩みを抱えた人に絞り込む必要があります。集客の規模よりも、見込み客一人ひとりと深い信頼関係を築くことが求められます。

さらに、月10万円以上となると、個人の消費者相手では難易度が高まります。そのため、必然的に事業者や法人をターゲットとした、明確な費用対効果を示せるサービスの構築が不可欠となるのです。

SNS戦略も「enough number」で変わる

スマートフォンでSNSを見る人

あなたがビジネスでInstagramなどのSNSを活用しているなら、この『enough number』の考え方は、その運用戦略にも大きな影響を与えます。

先ほどの月商100万円のモデルを、もう一度見てみましょう。

同じ月商100万円でも…

  1. 月1万円 × 100人
  2. 月2万円 × 50人
  3. 月5万円 × 20人
  4. 月10万円 × 10人
  5. 月100万円 × 1人

Instagramのフォロワー数は、発信するジャンルによって獲得できる規模が大きく異なります。

もし、あなたが「とにかくフォロワー数を増やしたい!」と考えるのであれば、多くの人が興味を持つエンタメ系、グルメ系、ファッション系といったジャンルで発信するのが最も効率的です。

しかし、多くのビジネスでは、他社との競争を避けるために、あえてニッチなジャンルを選んだり、独自の強みで差別化を図ったりしているはずです。それは、競争相手が少ない市場で戦おうとする、賢明な戦略です。

それにもかかわらず、「ニッチな市場で戦う」という戦略をとりながら、「フォロワーはたくさんほしい!」と願うのは、「目的」と「手段」がずれてしまっている状態だと言えます。

フォロワー数よりも大切な指標

ニッチなジャンルでビジネスをする場合、フォロワーの「数」よりも「質」が圧倒的に重要です。具体的には、いいねやコメント、DMなどの反応を示す「エンゲージメント率」や、後で見返したいと思ってもらえた証である「保存数」を重視しましょう。これらの指標が高いアカウントは、たとえフォロワー数が少なくても、濃いファンに支えられた強いアカウントと言えます。

「enough number」をSNS運用の基準に据える

もし、あなたのビジネスが「月1万円のサービスを100人に提供する」モデルで月商100万円を目指しているとします。この場合、あなたのサービスに本当に価値を感じてくれる質の高いフォロワーが1,000人もいれば、ビジネスとしては十分に成立する可能性があります。

これは、一般的に言われる「ファンの中から10%が顧客になる」という考え方に基づいた概算です。つまり、1,000人の熱心なフォロワーがいれば、そのうち100人が顧客になってくれる可能性がある、というわけです。

では、「月2万円のサービスを50人に提供する」モデルならどうでしょうか。必要な顧客数は半分の50人ですから、熱心なフォロワーはその半分の500人程度でも十分に目標達成の可能性があると思いませんか?

フォロワーの急拡大がもたらす思わぬ罠

逆に、フォロワー数を急いで拡大させようとすると、あなたのビジネスのターゲットではない人々までフォロワーになってしまうという罠にはまります。

見込み客が一気に増えるのは良いことのように思えますが、SNSでは、あなたのビジネスに全く関心のない人も、キャンペーンや話題性だけでフォローすることがよくあります。

InstagramなどのSNS集客を真剣に考えているなら、フォロワーの「数」だけでなく、フォロワーとの「距離感」を大切にしなければなりません。

考えてみてください。同じような商品を買うなら、まったく知らない人よりも、日々の発信を通じて親近感を覚えたり、DMで丁寧に質問に答えてくれたりする、適切な距離感の人から買いたいと思うのが自然な心理です。

しかし、ターゲットではないフォロワーが増えすぎると、本当に大切にすべき「未来のお客様」への対応が手薄になり、彼らとの心理的な「距離感」はどんどん遠くなってしまいます。

スモールビジネスは「enough number」を小さくする戦略を

少数精鋭のイメージ

ここまで『enough number』の意味と、それがビジネスに与える影響について解説してきました。ここからは、僕自身の経験も踏まえた、より実践的な意見をお伝えします。

僕が強く推奨するのは、「スモールビジネスであるほど、高単価でenough numberが小さいビジネスモデルを目指すべき」ということです。

具体的な数字でイメージしていただくなら、月商100万円を目指す場合、個人向けサロンなら「月2万円×50人」、事業者向けサービスなら「月10万円×10人」。まずはこのくらいの数字で事業計画を立てることをお勧めします。

しかし、僕自身も過去にサロンを経営していた時に陥ったのですが、多くの人が以下のような考えから、価格設定に失敗してしまいます。

  • できるだけ安くサービスを提供してお客様に喜んでもらいたい
  • 競合のあのサービスがこの価格だから、うちもこのくらいの値段設定が妥当だろう

このような「優しさ」や「市場調査」は大切ですが、それが原因でビジネスが立ち行かなくなっては元も子もありません。

「高い商品は売るのが難しい」という思い込み

『enough number』を小さくする、つまり少ないお客様に対して高単価の商品を販売するモデルを目指す時、多くの人が「こんなに高い商品を、本当に買ってくれる人がいるのだろうか?」という不安に駆られます。

ですが、思い出してください。お客様が購入を判断する時、見ているのは「価格そのもの」ではありません。彼らが見ているのは「その商品がもたらす価値に対して、提示された価格が妥当か、あるいは安いか」という点です。

極端な例ですが、コンビニでボールペンが1,000円で売られていたら「高い」と感じるでしょう。しかし、もし高級ブランドの革財布が1,000円で売られていたら、誰もが「ありえないほど安い」と感じ、すぐにでも手に入れたいと思うはずです。

つまり、極論を言えば、「これだけの内容とサポートが受けられるなら、もっと高くてもおかしくないのに」とお客様に感じてもらえるような、価格を圧倒的に上回る価値のある商品を作り上げれば、価格は問題になりません。

もし「高い商品を売れるだろうか?」という不安がよぎったら、「どうすれば圧倒的に価格以上の価値を提供できるだろうか?」という問いに、意識を転換してみてください。

価値を伝える「ベネフィット」

商品の価値を伝えるには、「特徴(Feature)」ではなく「顧客にとっての利益(Benefit)」を語ることが重要です。例えば「この美容液には高濃度のビタミンCが配合されています(特徴)」ではなく、「この美容液を使い続けることで、気になっていたシミが薄くなり、友人から『肌が明るくなったね』と褒められるようになります(利益)」と伝えることで、顧客は価格以上の価値を感じやすくなります。

手厚いフォローアップこそが最強の武器になる

また、少ないお客様に高単価の商品を買っていただくビジネスモデルだからこそ、一人ひとりに対して「手厚いサポート」や「丁寧なフォローアップ」を提供することが可能になります。

逆に、多くの人に画一的な商品を効率的に販売するのは、豊富な資金と人材を持つ大企業の得意分野です。私たちスモールビジネスが、大企業では決して真似できないレベルでサポートやフォローアップを徹底すること、それ自体が自然と他社にはない強力な差別化要因となるのです。

公式LINEは「個別チャット」をコミュニケーションの軸に

スモールビジネスがお客様との関係性を深めるためのフォローアップとして、最も手軽に始められるのが公式LINEです。

もちろん、手書きのハガキや特別な郵送物なども効果的ですが、コストや手間を考えると、まずは無料で始められる公式LINEから着手するのが最も現実的でしょう。

そして、その公式LINEの運用方法も、『enough number』が小さいビジネスであれば、その軸を「個別チャット」に置くべきです。

一斉配信やステップ配信は、一度にたくさんの人にメッセージを届けられる便利な機能です。しかし、受け取った側からすれば、それが「自分以外の全員にも送られているメッセージ」なのか、それとも「自分のために書かれた個別のメッセージ」なのかは、瞬時にわかってしまいます。

個別でのやりとりは、確かに時間も手間もかかります。しかし、あなたのビジネスの成功に必要な『enough number』が明確であれば、その大切なお客様候補や既存のお客様とのコミュニケーションに、集中的に時間を投下することができるはずです。やみくもな作業に時間を費やす必要は、もうありません。

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本岡 直樹
出身:兵庫県 生年月日:1989年10月29日 【経歴】 ・学生時代に起業 ・イベント、サロン経営、アフィリエイト、コンテンツ販売 等を経験し、集客・マーケティングの重要性を痛感して、集客支援をスタート。
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